ノーベル経済学賞
ノーベル経済学賞-日本で一番親しみのない賞-
毎年10月になると、ノーベル賞週間が始まり、その年のノーベル賞が発表されます。日本人はほとんど全てのノーベル賞をとっていますが、唯一受賞してないのがノーベル経済学賞です。ノーベル賞は、ノーベルの遺言と遺産で成り立っていますが、1901年から受賞者がでています。この時には、ノーベル経済学賞はありませんでした。ノーベル経済学賞は、ノーベルの死後70年後の1968年から受賞者が出ています。経済学賞以外は、ノーベル財団から賞金がでていますが、経済学賞だけは、スエーデン国立銀行の300周年記念として、賞金は国立銀行から拠出されています。科学3賞、文学賞、平和賞は、ノーベル財団から拠出されており、日本の所得税法から、これらの賞金は非課税であることが決められています。ところが、日本人が経済学賞を受賞したとすると、上記の所得税法の非課税範囲からはずれ、所得税がかかります。経済学賞らしいと言えばそうかもしれませんが、一線を画していると言えます。さらに経済学賞は正式には、「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞」と言います。昨今経済学賞の是非が議論されていますが、経済学賞の設立過程と経済学理論の成り立ちから疑問を持つ人もいます。ここでは、ノーベル財団の通例に従って経済学賞と言うことにします。
経済学賞は、経済学の分野で傑出した重要研究、これを達成した人物に毎年授与される、とされています。2017年の経済学賞は、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授が受賞されました。セイラー教授は、行動経済学の権威で、経済学の意思決定の分析に心理学に基づく現実的な仮定を組み込んだことで知られています。いわゆるシカゴ学派と言われているグループです。近年経済学賞は、ほとんど米国の研究者であり、しかもシカゴ学派と言われているグループからの受賞者が多く輩出しています。日本人の経済学賞に近いと言われている方もいるようですが、もとを正せばシカゴ学派だったりします。
経済学賞を受賞したファンドの経済破綻
また、経済学賞では、全く異なる学説を唱える人がともに経済学賞を受賞したこともあるようです。真反対の学説ですので、どちらかが間違っているのは明らかですが、ともに受賞してしまっています。このようなこともあり経済学賞の存在意義を問う人もかなりいるのも事実です。
有名な話ですが、1990年代のLTCM(Long-term-capital-management) と言う米国のヘッジファンドがありました。有名な研究者でコンピュータ・サイエンス出身の金融経済学者でスタンフォード大学教授マイロン・ショールズと、数学出身の経済学者でハーバード大学教授ロバート・マートンがいました。彼らは、フィッシャー・ブラック(Fischer Black)と共同で導出に成功したいわゆる「ブラック・ショールズの公式」(Black-Scholes formula)で知られるデリバティブ価格付け理論の確立に成功し経済学賞を受賞しています。ところが、なんと言うことか、LTCMは1998年に破綻してしまいました。選考委員会のなかには、経済学賞に対する受賞の撤回、経済学賞自体の廃止の声さえ上がったと言われています。
つまるところ、経済学は理論としてまとめるにはまだまだ複雑すぎ絶対間違いのない理論が立てられないのではないかと思います。不確実な経済学賞のかわりにノーベル賞にない科学で重要な数学をノーベル賞にあげることのほうがよほどreasonableだろうと思います。
なお数学には、ノーベル賞級の賞として、4年に一度のフィールズ賞と毎年のアーベル賞があります。